S-1グランプリ[S-1 Grand prix]
近畿圏で活動する障害のあるパフォーマーにスポットライトを当てるグランプリ企画。ジャンルや経験を問わず、既存の枠組みにとらわれないパフォーマンスを公募形式で募集し、発表することを通じ、新たなアーティストを見出すとともに、舞台芸術やその評価のあり方を問い直すことを目指しています。
動画による一次予選を通過したパフォーマーは、グランプリ決定戦の舞台の上でパフォーマンスを披露します。
「たむロイド香芝新聞」たむちゃん
審査を振り返って
今回初めての試みということもあり、応募された多様なパフォーマンスを誰がどういった基準で評価するのか、審査員のみなさんのあいだでは、さまざまな議論が生まれました。
その人の障害や背景をどこまで踏まえるか、ステージでの発表を前提に選考すべきか......など。最終的には、「ユニークさ」「先進性」「唯一性」「身体性」という観点を軸に、それぞれの審査員の専門性や視点から協議をしてグランプリや各審査員賞を決定しました。
グランプリのたむちゃんは、情景がうかぶ語り口の味わい深さや、質問も答えも自分で読む表現方法などが評価され、晴れてS-1グランプリの初代グランプリ受賞者となりました。(事務局)
一次予選を通過したパフォーマー
写真をクリックすると動画がご覧いただけます
審査結果
- グランプリ
- 「たむロイド香芝新聞」たむちゃん
- 鈴木京子賞
- 「ちゃんばらごっこ」遊びの会
- 武内美津子賞
- 「HANAのくまさん」アッピー
- 塚原悠也賞
- 「今まで観た事がない光景」遠藤悦夫
- 常磐成紀賞
- 「ドレミ・アドリブ・エクスプレス」アイーダ・アイダ
- オーディエンス賞
- 「ごちゃまぜ」Kaz-You
ゲスト
写真をクリックすると動画がご覧いただけます
ダイジェスト
開催概要
S-1グランプリ 2024
| 日 時: | 2024年12月6日(金)13:30開場 14:00開演 |
|---|---|
| 会 場: | 茨木市文化・子育て複合施設 おにクル きたしんホール(大阪府茨木市駅前三丁目9番45号) |
| 定 員: | 50名 |
| 入場料: | 無料/事前申し込み制 |
本事業は厚生労働省「令和6年度障害者芸術文化活動普及支援事業」の一環として実施しました
審査員(2024年度)
-
鈴木京子(国際障害者交流センター ビッグ・アイ 副館長)
ビッグ・アイの仕事をきっかけに障害のある人が舞台芸術に表現者や鑑賞者として参加できる舞台の企画、制作や全国の劇場・音楽堂等の研修会講師、企画・制作等のコーディネートをおこなう。特定非営利活動法人CUE-Arts 理事。文化庁・厚生労働省「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」委員。大阪府 「文化芸術部会」委員ほか。著書「インクルーシブ シアターを目指して/障害者差別解消法で劇場はどうかわるか」(ビレッジプレス)。
-
武内美津子(バイリンガル女優、詩人、表現者)
大阪府堺市在住、71歳。2004年51歳の時、突然病に倒れ死線を彷徨い、10年以上かけて回復するも視力を失い、現在、病と視覚障害と共に生きている。2014年より舞台表現を始め、一人芝居で金賞やグランプリなど受賞多数。これまで、True Colors Festival、東京2020パラリンピック開会式、TBSドキュメンタリー映画祭2024の「旅する身体~ダンスカンパニーMi-Mi-Bi~」、鹿の劇場等に出演。絵や書も描き、2022年には創作過程をゲーテ・インスティトゥート(京都)のガラスのアトリエで披露した。文芸活動ではNHKハート展入選など受賞多数。
-
塚原悠也(コンタクト・ゴンゾ、KYOTO EXPERIMENT 協同ディレクター)
関西拠点のパフォーマンス集団contact Gonzoの活動を2006年から始め、装飾を省いた即興的なパフォーマンスを世界各国で展開。実はcontact Gonzoが人類の知性の命運を握る活動をしていたという未来視点のSF小説を書いたり、果物を時速100キロで自分たちの体に撃つこともある。現在は京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTの共同ディレクターも務める。
-
常盤成紀(公益財団法人堺市文化振興財団 事業係長)
1990年大阪府堺市生まれ。株式会社紀陽銀行、京都市役所/地域おこし協力隊等を経て2021年から現職。小中学校・こども園・こども食堂・福祉施設等の現場で、アートコーディネーターとして地域と芸術をつなぐ事業や、担い手を育成する事業の企画・運営管理をしている。個人の表現活動として、2015年からアミーキティア管弦楽団主宰。地域や人びとの歴史・生活・記憶・文化と音楽表現とを結びつけながら、社会の中でのオーケストラのあり方を問い続けてきた。
レビュー
S-1グランプリ、第一回目となる今回は、デュオの音楽とダンスのパフォーマンスから、ちゃんばらごっこ、自ら発行する新聞のことや漫才、そして謎の名付け難いパフォーマンスまで、バラエティに富んだ内容が披露された。事前審査には20組の応募があったとのことで、その中から選ばれて舞台に登場した8組のパフォーマンスは、まさに「まだ見ぬパフォーマー」のタイトル通り、これまで培われた評価軸ではどうにも物差しがうまく当てはまらないような不思議な魅力を放つものばかりであった。審査はやはり難航したようで、時間を遅らせて行われた結果発表の際は、独特の緊張感が会場に漂っていた。晴れて賞を獲得したパフォーマーたちは、喜びの言葉を口にしていた。
それぞれに特徴的だったのは、出演者たちが過ごしてきた環境の中で生まれた、生活と結びついた表現だったことだ。日々の居場所を楽しく過ごすための工夫の中から生まれたものだったり、体を整えるために行うものだったりだ。企画趣旨には、「障害のあるアーティスト」によるものとあるが、出演したグループは、障害のない人を含んだものが多く、さまざまな人々の協働によって生まれたであろうそれらの表現は、普段の日々の楽しさを想像させるものだった。
ところで、今回の企画趣旨は、「舞台芸術そのものを問い直すことを目指し」たものであり、既存の芸術との距離を多分に意識したものであることがわかる。そこで気になるのは、その目論見は成功したのだろうか?ということだ。審査員からは、「まだ見ぬ」芸術に対する「まだ見ぬ」言葉をほとんど聞くことができなかった。一体、審査はどのように行われ、なぜそのパフォーマンスに決定したのだろうか。ちなみに、審査基準とは、「ユニークさ」「先進性」「唯一性」「身体性」であることが公表されていたが、なんだかこれらの基準が、これまでの芸術の評価基準から超えるものでないようにも思われる。
今回のパフォーマンスにおいて光っていたのは、「他者とともに生きてゆくこと」の磨かれた技術だったのではないだろうか。福祉の場において生み出される数々の表現は、その面白さだけでなく、特別な事情を抱えつつも周りとの共同で生き抜くための貴重な知恵であり、技術である。ピアノが好きな施設の職員が、施設で皆の好きそうな曲を弾くと、歌や踊りが好きな人たちが集まってきて、なんだかいい感じの空間が生まれる。それが、楽しげな4名ほどの踊りと歌のパフォーマンスとなった。あるいは、幼なじみの(障害のある人とない人の)二人が、遊びとして即興で楽しんでいた音楽活動が、仲睦まじく披露された。それらは、個々の場所で編み出された、人が共に生きていく上での技術を、固有のユーモアと価値観とともに教えてくれるものでもある。
この技術や面白さを共有するための舞台設定もまた、既存のそれではない、よりパフォーマーと観客の双方の関係が感じられる開かれた場がふさわしいのではないだろうか。例えば、マルシェや様々な人が行き交う広場、観客もまた互いの交流からそこで新たな価値観を生み出せるような、カフェなどだ。そうした場所は、それぞれのパフォーマンスが生まれた現場とより近く、観客との距離の近さにより、発表の場はより生き生きとしたものになるかもしれない。そうして披露される技術は、しばしば厳しい現実を突きつけられもする社会のさまざまな場面において、多くの人々の心に届くものとなるのではないだろうか。
沼田里衣(大阪公立大学 大学院文学研究科 文化構想学専攻 准教授)
2000年より音楽療法の研究・実践を開始、2007年神戸大学で博士号取得後、同大学研究員、2017年より大阪市立大学都市研究プラザテニュアトラック特任准教授、2020年より同大学文学部准教授。 即興音楽療法に関する研究をスタートしたが、社会に開かれた音楽活動の必要性を感じ、2005年より知的障害者と音楽家、音楽療法家が新しい音楽表現の地平の開拓を目的に活動する「音遊びの会」主宰(〜2017年)、2014年よりおとあそび工房(〜2021年)を主宰する。音、からだ、ことばを使って様々な人々との対話を繰り返しながら思考する実践を、臨床音楽学研究として進めている。








